犬神佐兵衛翁がなくなってから、八か月ほどたった十月十八日のことである。那須湖畔にある那須ホテルへ、ひとりの客が来て部屋をとった。
客というのは、年ごろ三十五、六、もじゃもじゃ頭の、風采のあがらぬ小柄の人物で、よれよれのセルに、よれよれの袴といういでたち。口を利くと、少しどもるくせがある。宿帳にしるした名前をみると金田一耕助。
『犬神家の一族』(角川文庫)12P
さて、問題の撮影は7月23日、旧中山道の望月という町にある、古い大きな旅館を借りて行われたが、・・・
『真説・金田一耕助』 (角川文庫)17P
金田一耕助が宿泊し、作者の横溝正史夫妻もホテルの主人夫婦役として登場した那須ホテルの撮影場所となった井出野屋旅館に宿泊しました。
大正14年に建てられた木造3階建てのとても古い旅館で、以前は料亭を営んでいたそうです。(部屋に押し入れはなく、階段も二方向から上れる)
玄関のガラス引き戸を開けると、正面に階段、右手にはちゃんと下駄箱も残ってました。助手の若林が倒れていた洗面所(廊下突き当たり左手奥)などは改築されていましたが、他は殆ど撮影当時と変わりないようでした。
石坂浩二と同い年だというご主人にお話を伺いました。
30年前、撮影の合間に三人(市川監督、石坂浩二、横溝正史)でなんだか難しい話をしているようだったそうです、さすが、慶応出(石坂浩二)は違うなぁと思われたそうです。
リメイク版(2006年12月公開)でも撮影が行われる予定で、四月の初めには市川監督も下見に訪れ、その後も美術監督の方が何度か来られ、あちこちで写 真を撮っていかれたそうです。
市川監督の体調の関係もあり、撮影が行われなかったことをとても残念がっておられました。
お子さん達も他の職業に就かれ、建物を維持管理するのも大変なので、いつまで営業できるかなぁ?とおっしゃってました。
しきりは障子だけ、階段を上り下りする足音や子ども達が遊んでいる声も聞こえてきて、旅館というより田舎のおじいちゃんちという感じでした。食事は、お蕎麦や鯉の煮付け、天ぷらなど、ご飯もお米を天日乾燥の農家から買っているそうで、とても美味しかったです。
冬期はシーズンオフなので空いているそうです。但し、-10℃という寒さだそうです。
(2006年8月記)